修了生インタビュー 松下沙彩さん
2023年にテレビ朝日新人シナリオ大賞を受賞した松下沙彩さん。シナリオ講座の基礎科・研修科を修了し一年も経たずに受賞をされました!
実は講座を受講するまでシナリオは未経験だったとのこと。シナリオを始めてから受賞までどのように至ったか、お話を伺いました。
ーー受賞作品『スプリング!』のあらすじを教えていただけますか?
勉強以外に自信のない優等生の女の子が、大学受験の前期試験に落ちてしまいます。ちょうどその時、全く別のグループ・カーストに所属しているような陽キャの男の子も試験に落ちてしまい、それまで関わりのなかった二人が一緒に二次試験に向けて小論文の勉強をする、3日間の成長話です。
ーー『スプリング!』は、松下さんがシナリオ講座の研修科受講中に書いていましたね。コンクールを意識して取り組んだのですか?
そうです。研修科を受けていた間にテレビ朝日新人シナリオ大賞のテーマが発表されて、講座が終わる直前の一ヶ月半くらいの期間に集中して書きました。
ーー執筆中、特に時間をかけたことはどんなところですか?
キャラクターや構成は早い内にできあがり、細かいト書きを削ったり足したり、最後までこのセリフでいいかなどシナリオでの直しが長かったです。講座では先生と生徒一人一人からコメントを聞けるので、一人で書くよりかなり恵まれている環境だったと思います。クラスにいた他の受講生も優秀な方ばかりでしたし、受けたアドバイスは自分じゃ気がつけないことの方が圧倒的に多かったです。だから、こだわりが無い訳ではないのですが、コメントをもらったことは全部直そうと思いました。もらった指摘はメモで箇条書きにして1つずつ反映できるか検証しました。1箇所を直すと前後も変わったり、辻褄が合わなかったりすることがあるので、本当に変えていいか考えることに時間がかかりました。
ーー作品の直しに力を入れたのですね。実は講座のカリキュラムも、作品の直しにウェイトを置いています。もらった意見をすべて自分の作品に落とし込んで書くのは簡単ではないと思いますが、松下さんはどうしていましたか?
授業の講評のとき、自分ではそういうつもりで書いてないのに、違う様に受け取られることがありました。でもそうなるということは多分、この書き方だと言いたいことが伝わらないんだと思ったんです。自分がシナリオを始めて一年も経っていない時で、圧倒的に自分ができていないに決まっているというのが前提としてあったので、言われたら直す方が絶対良いと思っていました。まだプロではないですし、自分の方が正しいと思う状況ではないというか、はっきりこれは取り入れられないなと思う意見以外、言われたことを直す方が絶対良くなると思いました。だからそれほど取捨選択はせず、もらった意見はほぼ拾っていました。森川治先生が、「プロになっても打合せで皆好き勝手に意見を言う。でも言われたことをちゃんとねじ込めるのがプロとプロじゃない人の違いです」ということを仰っていました。だからそうしないといけないんだと思って作品にねじ込みました。
ーー今回の作品で一番苦労したのはどんなところでしたか?
色々あるのですが一つが、作中で国語の先生が小論文についてアドバイスする、具体的な内容です。信憑性があり観ている人が「なるほど」と思えなきゃいけない。例えば、漫画の『スラムダンク』では、登場人物達がただバスケットボールをしているだけではなくて、1つ1つのアドバイスや練習方法が描かれているのを見て、読者が「なるほど」と思えるから、面白いと思うんですよね。講座でも、先生から「人間ドラマの前に、ちゃんと小論文というものの書き方とか、実際にどういうものを主人公の二人が書いて読み交わしたのかに、具体性がないとだめだよ」と言われました。ラストの小論文試験で主人公が何を書いたのか。最初は書いていなかったのですが、そこは絶対やりなさいと言われたので実際に作文用紙1枚分くらいちゃんと書きました。小論文の中身を考えること、そこも大変でした。
ーーシナリオに主人公の小論文が載っていましたがご自身で実際に書いてみたんですね!他に意識したことはありますか?
シナリオが映像になったときのことを考えると、小論文は文字で書いてあるので、その内容をただ画面に映しても、とても地味になってしまいます。だから主人公達が小論文を声に出して読み合うシーンを作りました。演出を書き過ぎるとそれは脚本家の仕事ではないということを講座で先生が言っていたので、どれくらい書いていいのか分からなくて悩んだりもしました。
ーー主人公の人物像はどのように考えましたか?
自分の経験からです。私も大学受験に落ちたことがありました。そのとき小論文を勉強して後期試験に受かったんですよ。学校の先生に書き方を聞きに行って、はじめて小論文の勉強をして。あのとき小論文を勉強して初めて「推敲」することを知りました。一発で出しちゃいけないんだと。そういう実際にもらったアドバイスもエッセンスとして今回のシナリオに入っています。ただ実話では残念ながら全く恋愛の要素はなかったんですけどね(笑)今回はその経験話に恋愛をかけあわせてみたらどうかな、と思って書いてみました。
ーー確かに、自分の経験は一番具体的ですよね。
そうですね。本来取材でわかる細部のことが、取材しなくてももうわかっているアドバンテージがあると思います。
ーー今回の受賞の前に、コンクールにはどれくらい出しましたか?
基礎科で書いた作品を橋田賞新人脚本賞へ出したのが1回目で、テレビ朝日が2回目です。この教室に通うまで、シナリオを読んだことも書いたこともありませんでした。誰よりも何も知らないで入ってきてしまった。しかも私のいたクラスは受講生が初めからレベルが高くて、最初は自分がすごく場違いだなと感じていましたが、おかげで良い刺激を受けました。
ーーコンクール応募にあたって意識をしたことはありましたか?
基礎科で取り組んでいた作品はコンクールは意識せずその時自分が書きたかったテーマで書きました。でも研修科で提出した作品は、テレビ朝日新人シナリオ大賞に向けたもので、『恋愛』というお題があったので、その条件のもとで書く必要がありました。『恋愛』というテーマは人から言われない限り、自分では書かなかったと思います。それからテレビドラマ。映画じゃなくてテレビドラマを書かなきゃいけない。だから頭を切り替えました。授業で先生が、映画とドラマの違いについてお話ししていました。映画は喋らないシーンが長くあるし、最初の導入で情景を映したりしてもいい。お客さんは映画館に入っていて、途中で抜けることが基本的に無いので。でもテレビドラマは「ながら視聴」することが前提だし、チャンネルを替えられてしまうから、とにかく初めの描き方が大事だということを先生から聞いていました。また、1時間ものだったら、できるだけ2~3日の期間の話を書いた方がいいと言われていました。長くても1週間。1ヶ月を1時間ものにはできない、ということを教わりました。そうすると自分の中で条件が段々できていき、最終的に後期試験という、三日しか準備期間のないものが題材としてちょうど良さそうだなと思いました。
ーーそれはすごい。逆算して取り組んだんですね。
もしかすると、そのやり方が自分に合っていたんじゃないかなとも思います。好きに書いていいと言われたら、誰も面白いと思わないような話を書いちゃうかもしれないので。
ーーありがとうございます。それでは今度は、講座が終わった後の話をお聞きしますね。普段どんな生活スケジュールで執筆していますか?
寝ぼけちゃうので、シナリオはなるべく夜以外に書きます。子供がいますので週末は書く時間がなかなか取れないため、子供が学校へ行ってる日中まとまった時間を3時間くらい取って書いています。夜は登場人物や設定を考えたり、作品を観たり読んだりすることに時間を使っています。
ーーシナリオを書きながら、作品を観る時間も欠かさず取っているんですね。
講座に通い始めてから、映画館へ1ヶ月に何本は観に行こうと決めたりして普段の過ごし方が変わりましたね。正直に言うとそれまでは自分が好きなアニメや漫画ばかり読んでいたのであまり映画館へ行くことがなく、人よりも映画に詳しくありませんでした。講座へ通い始めて先生から映画を沢山観るよう言われて、実写映画を積極的に観るようになりました。それから「月刊シナリオ誌」は毎月シナリオが3本は載ってるので沢山読めると思って定期購読しています。あとスタジオジブリ作品の設定集が好きでよく読みます。ストーリーの背景が描いてあったり取材したメモが書いてあったりして、作品がどういう風に考えて作られたのかがわかります。とにかく毎日何か読んだり観たりしています。
ーー毎日作品を観たり創作に触れることで、刺激やインスピレーションを受けているんですね。
そうですね。全く天才ではないので、インプットしないと自分から何も生まれないっていう強迫観念があります。シナリオ講座に通い始めてからは、1日もシナリオのことを忘れることができなくなってしまって、ずっと何かやってますね。読むか観るか書くか、1日何もしないことがなくなったので、結構生活は変わった気がします。
ーーシナリオを書いてみようと思ったきっかけは何ですか?
私は講座に入るまで、シナリオを読んだことがありませんでした。全然仕事と関係ないことで頭を使ってみたいと思ったことと、アニメや漫画が好きだったから脚本を学んでみたいと思って入ったので、どちらかと言えば趣味に近い動機で参加しました。ところが1回目の授業で、クラスを担当する安井國穂先生が全員に、「趣味で書く人に教えるのと、プロに本当になりたい人達に教えるのとでは、全然教え方が違うんですけど、あなたたちはどっちでしょうか?」って聞かれたんですよ。そうしたら私以外、みんなプロを目指してる感じの雰囲気を醸し出していたんです。つい言えなくなり、プロになりますと、同調したふりをして話を聞いてしまいました。そうしたら先生が「じゃあプロになることを前提に教えます!」と。もうこうなったら、今日からプロになることにしようと、その日決めました。ただ学び始めたらすごく楽しかったので、1ヶ月後にはいつかプロになりたいと本当に思うようになりました。
ーー「今日からプロになろう」……!気持ちの切替がすごいですね。
実際このクラスの皆さん、最初から結構書いてきてたじゃないですか……!ああそういう感じなんだと思って焦って。授業だけじゃ足りないと思って、シナリオ本を沢山買って勉強しました。なんとか皆に追いついてまずはプロットを出せるレベルになりたいというのが、基礎科のモチベーションでした。
ーー松下さんは基礎科でプロットを3稿まで、シナリオは2稿まで進めていましたよね!
受講していたときはとにかく必死で……。でも実は途中まで書いて止まっているような作品もあるんです。
ーーそうでしたか。途中で書けなくなったときはどうやって打開しますか?
打開してないので言えないんですけど(笑)。でもひとつ、打開するためには締切が無いとダメだなって思いました。講座の毎週の課題やコンクールの締切など、自分で、「とにかくここまでに書き切る!」と決めることかもしれないですね。先生も、「とにかく全然出来が悪くてもいいから最後まで書いてください」と何回もおっしゃっていて。「結末まで書いてないのは書いてないのと一緒」って何回も言われました。とにかく1回最後まで書くというのが打開策なんだろうなと思います。
ーー作品を書き切るゴールを決めておく、ということですね。
そうですね。あと最後まで書きやすくするためには、もうちょっと制約を自分に設けたほうがいいのかなとも思いました。テレビ朝日コンクールのテーマが『恋愛』で、もしそれがテーマではなかったら多分、私ずっと恋愛ものを書けなかったと思うんです。そこで1回無理やり恋愛ものを書いてみたら、他の恋愛ものの作品を書けるようになりました。自分の中で解禁できたので、テーマとか制約にチャレンジすることは良いなと思いました。
ーー目標や参考にする作品は何かありますか?
私ジブリがずっと好きなんです。自分の子供に観せるついでに自分も観始めたら、『千と千尋の神隠し』はやっぱり面白いなって。設定集には、後ろに絵コンテが載ってるんですよ。その絵コンテのト書きやセリフを描き写したり、声に出して読んだりして。『スプリング!』を書くときは、『魔女の宅急便』の設定集の絵コンテを読んで、このシーンはこういうト書きになってるんだとか、勉強になりました。すごく簡潔に書かれていて参考にしています。それから、シナリオを読んでおもしろいと思ったのは、向田邦子さんのシナリオ集です。向田さんのシナリオは、初めてすんなりと読めたんです。いつも私はシナリオを読むとき、小説に比べて時間がかかってしまって。このセリフってどういう気持ちで言ってるんだろうとか、このト書きは映像にしたらどうなるんだろうとかを考えて読まないと、わからない。でも向田さんのシナリオは、初めて小説のように読めました。こんなにきれいなシナリオがあるんだと思って。シナリオを読んで気になったト書きをExcelに溜めることをしています。誰かのセリフは真似してはいけないけれど、ト書きはいくらでも参考にできますから。例えば「諦めたらそこで試合終了ですよ」というセリフがどんなに気に入っていても自分のシナリオには書けない。でもこのト書きとても良いなと思ったものは参考にしています。
ーート書きを溜めていく……!
私は学生の時からメモ魔なんです。自分の記憶力がやばいことを自覚しているので。どんなに感動しても次の日には忘れてるんです(笑)。そのお陰でメモする癖があります。ト書きのメモも、最初は付箋を貼ってたんですけど、探すのが大変になって。今度はExcelにまとめて、「街」とか「ビル」「団らん」とかト書きにタグをつけて探せるようにしたんです。作品名と脚本家名を書いたものを一覧にしておけば、何らか検索できると思って。自分でト書きを書いているとどうしても冗長な書き方しかできない時があって、そのときにメモを見返すと、この一行で済むんだなと、発見があったりします。
ーー講座に通って学んだ技術で、役立っていることはありますか?
本当に全部役立っているというか、行かなかったら絶対に賞をとれてないし、書き上げられてすらいなかったと思います。私は年齢的なことも考えて最短の道と思いシナリオ講座へ一年通いました。講座は基礎科が始まって何週間か座学の授業がありますよね。そのときのノートは今でも書くときに見直しています。あの座学授業がなければ、書けてないと言えるほど、言われたこと全部役に立っています。それから、先生が授業の合間に雑談をしてくれるのですが、それが実はとっても勉強になるんです。業界の話や、プロを目指す上で注意した方がいいこと、先生個人の経験が、私達からしたら「へぇー!」ということばかりで、雑談の話もメモを取っていました。他の受講生の質問から自分が思いつきもしなかったこぼれ話を先生から聞けたりもしましたね!あとは「この作品を書くならこの映画を観なさいね」など作品のアドバイスを具体的に言ってくれるので、とても役に立ちました。クラスを担当する先生が3人いることも良かったです。毎週違う先生の話を聞けますし、一つの作品をそれぞれの先生に読んでもらったのですが、三者三様のアドバイスを言われます。プロの実践の場でも多分そうなんだろうなと勉強になりました。ただ時々、3人の先生が同じ指摘をすることがあるんですよね。それは本当に大事なことなんだなと実感しました。あと実は、他の受講生の作品に対する講評が、結構私は役に立ちました。自分の作品が講評されているとき焦っているんですよね。どうしたらいいんだろうって、パニックになってしまう。でも他の人にアドバイスしている間は、その内容をすごく冷静に聞けるんです。だから他の人へのアドバイスも全部メモして、自分も次はそこに気をつけて書くよう注意しました。あと講座にいて良かったのは、他の人達の作品も、授業でのアドバイスを経てだんだん直されていく過程を一緒に見られることです。自分が一番できていなかったこと、優秀な受講生ばかりのクラスでとても恵まれていたこともあって、書ける力のある人達がこうやって直すんだっていうのを毎回一緒に見れるのは、凄く勉強になりました。だからとにかく絶対シナリオ講座は行ったほうが良いと思います。特に独学で、自分でシナリオを書いている人は、1回行ってみてほしいです。
ーーありがとうございます……!講座に通って身につけたことが、松下さんの自信になっていると、とても嬉しいです。
出来てきているかどうかは別にして、1回ちゃんと基礎を学んだぞというのが、精神的に自分を支えていると思います。特に、プロとして活躍する脚本家の先生達に教えてもらえる環境なんて普通にはまずありませんので。私は東京近辺在住じゃないので業界の人とまず知り合わないし、周りにシナリオを書いてる人も知らないし。そもそもネットワークが無さ過ぎたので、ここに通うしかないなと思いました。リモートで受けられますから、地方の人は、絶対この講座は良いんじゃないかなって思います。コロナの前だったら東京に住んでないとこういうプロの教える学校に通うのも難しいと思いますし、今の時代だからこそですよね。
ーーぜひこれから松下さんがプロとして活躍することを、心待ちにしています。
ありがとうございました!!
プロフィール
松下沙彩(まつした・さあや) 脚本家
北海道出身。シナリオ講座第78期基礎科・研修科修了。広告代理店でプランナーとして勤務後、プランナー・リサーチ業務や子育て・日本茶関連のメディアでライター業を開始。講座修了の翌年に、第23回テレビ朝日新人シナリオ大賞にてオリジナル脚本「スプリング!」が大賞を受賞。短編ドラマ「てのひらラブストーリー ~婚活五重奏~」がYouTubeにて配信中。