修了生インタビュー 小嶋健作さん
専任講師との縁で、シナリオ講座修了後わずか1年でプロデビュー。研修科で執筆したオリジナル作品が有名監督の手で映画化されるなど実力派ライターの仲間入りを果たした小嶋健作さんにお話しを伺いました。
ーーシナリオ講座に通われる前からシナリオの勉強はされていたのでしょうか?
最初は自分で映画を撮りたくて映画美学校に通いました。そこで書いた30分の短編シナリオが修了制作に選ばれて、自分で監督をしたんですが、すごく辛くて。せっかく半年かけて書いたシナリオを自分で台無しにしている気がして、自分には監督は向いていないなと思ったんです。そこから、シナリオを意識的に勉強し始めました。でも美学校を出てから結局5~6年書けないままで、「これはヤバイ。俺、ただの映画好きのフリーターだ」と思って、シナリオ講座に通うことにしました。
ーーお仕事をしながら講座に通われていましたが、両立は大変でしたか?
生活としては大変でしたけど、辛いとは思わなかったです。基本、「映画好きのフリーター」なので……(笑)。プロに教わりながら書くというのは、充実していて楽しかったです。仕事中もぼんやりシナリオのことを考えたりして、全然苦にはならなかったです。
ーー講師の指導はいかがでしたか?
木田紀生先生は話をどう組み立てていけばいいかを構造的に分りやすくアドバイスしてくれて、真辺克彦先生は(物語の中で)引っかかるところがあると、そこで立ち止まって「なぜここで、この人がこうするのか?」と突き詰めて考えていって、一緒に答えを見つけてくれるような感じでした。井上正子先生は、書き手の品性を問うというか、表現することに対してとても厳しかったですね。
三者三様でしたが、こちらが漠然とイメージでしか掴めていないものを、どうやって人物の具体的な行動や台詞で表現するかという点は共通していました。プロの脚本家の考え方、ものの見方というものがあるのだと感じました。
ーー講師に言われて心に残っている言葉はありますか?
講座に通い始めてすぐ、真辺先生に「君たちはもうプレーヤーなんだから、評論家になったらダメだよ」と言われました。プロを目指す以上はプロと同じフィールドにいるのだから、ただの映画ファン的に外野から分かったようなことを言って満足するのではなく、「この映画はなぜこうなっているのか?」「自分だったらどう書くか?」を意識しながら観なきゃいけないと教わりました。
ーーどのようにデビューされたのでしょうか?
講座を修了して1カ月位して、真辺先生から「『深夜食堂』(監督:松岡錠司ほか、主演:小林薫)の新シリーズをやるから手伝ってくれないか」と声を掛けていただきました。(――初めてのプロの現場で戸惑いはありましたか?)ガチガチに緊張していましたね、嬉しい反面、メッキが剥がされるというか真価が問われてしまうというか……。あと、仕事として書くということは(習作の時とは)違うことなんだろうなと思い込んでいるところがあって、とにかく形にしなきゃいけないという力(りき)みがすごくありました。でもその時も真辺先生に「“プロっぽく”書こうとするな」と言われて、肩の力が抜けました。“それっぽく”“いい感じに”書こうとするのではなく、シナリオ講座でやってきたことと同じように、自分の“実感”で書かなきゃいけないと思えるようになりました。
ーー本年公開されたオムニバス映画『ブルーハーツが聴こえる』の中の『1001のバイオリン』(監督:李相日、主演:豊川悦司)は、小嶋さんがシナリオ講座受講中に取り組んでいたオリジナル作品です。どのような経緯で映画化されることになったのでしょうか?
研修科で書いたシナリオを、真辺先生が「読んでみてほしい」と李相日監督へ送ってくれたんです。その時は感想を頂いただけでしたが、しばらくして李監督のほうにオムニバス映画の企画が来た際に「小嶋くんのあの話をベースにやりたい」とお話を頂き、もともと長編だったものを短編にする作業を李監督と一緒にやりました。もともと映画を観始めた頃からクリント・イーストウッド監督やシドニー・ルメット監督の作品が好きだったので、社会性のあるテーマをもった作品を書きたいという気持ちは常にありました。『1001のバイオリン』は、東日本大震災と原発事故の後に感じたことを自分なりにフィクションで表現したいと思って書いたんですけど、「キネマ旬報」で(映画評論家の)モルモット吉田さんに「問題提起しても描くべき中心の空洞ぶりが際立つ」とばっさり斬られて、悔しかったですね。その「描くべき中心」を書いて、いつかリベンジしたいと思います(笑)
ーー震災・原発事故を書こうと思われた理由は?
それを書かずに、現代の話をもう書けないんじゃないかと思ったんです。太平洋戦争の後に日本映画の名作が沢山生まれたように、震災・原発事故を経た後の話を一回書いておかないと、という気持ちがありました。シナリオ講座で、プロの脚本家に指導してもらいながらだったら書けるかな……と。昨年話題になったような、震災をなんとなくほのめかす映画もありますが――、それはそれで一つの表現だと思うのですが、やはり真正面から描かなきゃいけないのではないかなと思って書きました。
ーーありがとうございます。シナリオ講座の後輩たちへアドバイスをお願いします!
自分が面白いと思って書いたものが今ひとつ相手に届かなかったり、納得できない意見を言われることもあると思いますが、そこでひねくれて書かなくなるのではなく、「自分が面白いと思うことをなぜ他人が面白いと思わないのか」を徹底的に考えて、「自分はこう考えたからこう書いた」ということを言語化することが大事だと思うんです。結果、相手の意見の方が正しいと気付くこともよくあるのですが、ただ言われたから書き直すのと、自分で納得して直すのは全然違いますから。プロになると、書くことと同じ位、打ち合わせ等でのやりとりがすごく大事なので、その訓練をシナリオ講座の授業を通してやっていると思えばいいのかなと。僕が受講した時はもう三十歳を過ぎていたし、ここでプロの人達に「こいつ、つまんねーな」と思われたら終わりだと思っていたので、とにかく頑張って書きました。そういう姿勢も含めて、「こいつなら大丈夫かな」と思ってもらえたからこそチャンスを頂けたと思っているので、めげずに通い、書き続けて欲しいです。
プロフィール
小嶋健作(こじま・けんさく) 脚本家
1980年生まれ。福岡県出身。2013年にシナリオ講座を受講後、2014年放送のドラマ「深夜食堂」第3シリーズでデビュー。代表作品に、映画「バカ塗りの娘」「深夜食堂」「破門 ふたりのヤクビョーガミ」「ブルーハーツが聴こえる『1001のバイオリン』」等。『深夜食堂 -Tokyo Stories Season2-』(出演:小林薫ほか)が配信中。