修了生インタビュー 園村三さん
2023年より新たに始まったシナリオコンクール TBS NEXT WRITERS CHALLENGE。
園村さんはシナリオ講座修了後わずか2年で、第一回の大賞を受賞されました。
講座でプロの脚本家から学んだアドバイスを、受賞作で活かすことができたそうです。詳しくお話を伺いました。
ーー受賞作品『フェイク・マミー』のあらすじを教えていただいてもよろしいですか?
名門の私立小学校に子供を通わせようとするお母さんが、子育てによって自分の仕事を諦めたくないので、学校に関することだけ代理のお母さんを立てるという話です。「フェイク・マミー」=偽物のお母さん、が学校の中に入り込むという物語です。
ーーどのような展開になるか非常に興味深いあらすじですね。
ありがとうございます。僕も子供が私学に通っているんですが結構大変で。帰ってくる時間が早かったり、かといって、その後あまり預けられる所がなかったりして。奥さんも自営業なので、お互いの時間を上手くやりくりして何とかやってます。きっとフルタイムで働くお母さんなら絶対通わせられないよね、と奥さんと話していたのですが、ある時、奥さんがX(エックス)で投稿を見つけたんですよ。家政婦の人が「とある学校で私が母親のふりをしています」という内容の書き込みでした。これは面白いと思って。それが創作のきっかけになりました。
ーー始まりはXの投稿だったのですね。そこからどのように物語を創ったのでしょうか?
母親のふりをする人は、どういうつもりで引き受けたのかな?というところに想像を膨らませました。シナリオ講座で僕は港岳彦先生のクラスを受講していまして、先生からキャラクター作りについて教わりました。それはキャラクターに対する質問を10個以上、例えばこれをしたら怒るとか、これをしたら喜ぶとか、キャラに対するアンケートのようなものを作るということを言われていて。
ーー実践する脚本家から直接でしか聞けない方法ですね。
その方法でやってみて、キャラクターがどんどん広がっていきました。提出したシナリオ第1話分は、2週間くらいで仕上がりましたが、そのもっと前にキャラクター作りをして、そこに結構時間をかけましたね。設問を一人一人のキャラクターにしていき、またひとつひとつの設問に答えて、設定の上で矛盾の無いキャラクターが出来上がるまでは長かったです。
ーー教わった方法がヒントになったということでしょうか?
それは、ものすごく。今言ったキャラクター作りに加えて、港先生からは「英雄の旅」についても詳しく教えてもらいました。いわゆる、主人公やストーリーがどのような王道の進み方をするのかというものです。迷った人が一度選択を止めて、もう一回選び直すというものが、序盤としては王道な展開と学びました。完全に踏襲したわけではないのですが、今回コンクールで書いたシナリオでも、キャラクターが迷うよう作りました。ここでも教わったことがすごく役立ちました。
ーー講座を受講するまで、脚本は未経験だったと伺いました。それまでは放送作家としてお仕事されていたそうですが、どうして脚本にも挑戦してみようと思い立ったのですか?
映画がすごく好きで、映画に関わる仕事がしたいなというのが、多分人生で一番最初に思い描いた夢でした。でも若いときに勇気が無くうまく踏み切れずに、その世界へ飛び込めなかったんですよね。映画やドラマ創作の世界に強い憧れがあったけれど、普通に会社員として働きました。その後、運良く放送作家になれたのですが、放送作家の仕事も何というか、慣れというのか、自分の中で情熱を持てずにいたりしていました。そのとき自分の中で何が残っているかなと思い出して「そうか、書くことをやってきたのだから、映画に関する仕事といえば、脚本なら、もしかしたらなんとかなるのかな」という甘い考えから、とりあえず飛び込んでみようと思い、講座を受講しました。
ーーちょうどご自身にとっても、再出発のタイミングだったんですね。
そうですね。その時家には宮藤官九郎さんの『タイガー&ドラゴン』の脚本集だけがありました。すごい好きな作品だったのでそれを買ってたんです。でも脚本に関するものは僕にはそれだけの状態でした。
ーー講座に通い本格的にシナリオを書いたり読んだりし始めたのですね。シナリオ講座は、自分の作品を書き、講評を受けて直すことを繰り返す、いわばトレーニングの場所ですが、講座を一年終えてその後、自分で書き続けなければいけないですよね。今回の受賞まで、どういうことをされていたのでしょうか?
実は、僕まったく書いてなくて……。講座を受講していたとき、作品は提出したのですが、それを最後まで書き切れなくて。それは、女性が出てきたときにキャラがロボ化したり、お話のためのキャラクターになったりしてしまうのがどうしても許せなくて。女性を書けないというのが、自分の大きな壁でした。あと、そもそも自分がいったい、何について書こうかというのが、まだわからなかったんです。授業で誰かの作品を先生が講評していて、「それは、あなたが書くべきことなの?」と言っていたことがあったんですよね。それがすごく自分の中で残っていて。じゃあ、俺は何を書くべきなのかなっていうのを、ずっと考えるような日々だったと思いますね。
ーー執筆のうえで、自分の課題があったということですね……。今回のTBSのシナリオコンクールに挑戦されたのはどういったきっかけだったでしょうか?
僕、書いた脚本を誰か色々な人に読んでもらうというのがすごく恥ずかしくって。ここぞという時だけにしたいなと思っていたんです。沢山書いて自分の中でブラッシュアップするというより、これと決めた一作を人に読んでもらう方が納得できるなと思って。それで2022年にNHK企画開発チームの募集に応募しましたが結果はダメでした。悔しくて、そこからは脚本を書く練習というよりも、何を書くべきなのか、ずっと考えていたと思います。
ーーそんなときに先ほどの投稿を見かけたのでしょうか?
そうです。奥さんの見つけてくれたあの投稿が自分の心の中に残っていました。TBSの今回のコンテストの中に『コンテンツの有する力を信じて社会を変える』という内容の言葉があり、そのテーマにも題材として合っていると思い、それをきっかけに話を作ろうと思いました。
ーー「フェイク・マミー」という題材が園村さんの心にひっかかった理由は何だったのでしょうか?
子育てをする上での女性の大変さですね。女の人の役割が非常に多様化していて、社会進出は進むんだけど子供を産むという役割だけは、男の人は代わることができない。だから、そこの部分が、女の人の生きづらさというか、社会的に矛盾している部分なんじゃないかなというのが、自分の中でとても気になることで。なにか、そういうものをドラマの中で現象として描くことで、観る人の心の中に問題意識が浮かぶような作品にできたらなと、思ったんですよね。
ーー「自分が書くべきこと」が見つかったタイミングが合致したということですね。シナリオを書き上げるまでの間に、先ほどお話しいただいたキャラクター作り、あるいは構成を考えるなど全体で相当な時間が必要になるかと思うのですが、生活の中で執筆の時間はどのようにしているのでしょうか?
僕の場合、書く時間は決めています。特に午前中の集中力がすごく効率が良くて、その時間をなるべく創作の時間に当てるようにしました。子供を学校に送り届けてから午前11時くらいまで書く、そして時間になったら見切りをつける。強制的に終わらせて、一日経つとアイデアが変わったりもします。それを修正して、ということを繰り返し、続けていました。
ーー書き始めて途中で筆が止まったりすることはありましたか?
時間が来て強制的に書くことを止めると、その後書いていない時でも、頭のどこかでずっと考えてるという状態になっていました。なので、筆が止まるということは無かったと思います。
ーーそれは良い方法を教えてもらいありがとうございます。先ほど先生から教わった「キャラクターの作り方」についてお話しいただきましたが、講座を受講して役立ったことは他にもありますか?
もちろんです。一つは、先生がお勧めするシナリオを読ませてもらったことがすごく大きかったです(※シナリオは著作物のため、講座での配布にあたっては著作権者の方より事前に許可を頂いております)。港先生の授業で、池端俊作先生の『仮の宿なるを』と馬場当先生の「豆腐屋の女房」のシナリオを配布してもらい、受講生が各自読んできた状態で、解説をしていただきました。どちらの作品も脚本だけでめちゃくちゃ面白くて、何回も何回も読みましたね。キャラクターが皆すごく面白いんです。講座を通して自分が全然観たことがない昔の名作ドラマなどすごく良い作品を教えてもらったことは何より勉強になったと思っています。映画『JOKER』の分析を先生から解説いただき、こういうシーンではこういう背景がある、という講義もおもしろかったですし、それからギリシャの古典『オイディプス王』のストーリー分析、これもすごく勉強になりました。
ーー園村さんの受講したクラスでは港先生が『オイディプス王』を教材として指定し、受講生一人一人に文庫を入手してもらっていましたね?
そうです。こういった作品が、今から2500年前には既にあったということをまず理解したほうが良い、ということを言われて。昔かっこつけて本自体は持っていたことがあるんですが、ちゃんと解説を聞いて作品に触れたのは初めてでした。ギリシャ悲劇のエンターテイメントとしてのすごさを教えて頂いたことは非常に大きかったです。一方で講座受講中、自分の書くべき作品を持っていなかったために、研修科ではほとんど他の受講生の講評を聞くだけになってしまったことが非常にもったいなかったと思っています。ちゃんと自分の中で書きたい題材をもって、研修科に行くべきだったなと思いました。
ーー作品講評の授業はどうでしたか?
先生方は生徒さんの作品に真摯に向き合ってくださって、特に港先生は時間を何分オーバーしたって、全員の作品講評が終わるまでちゃんと最後までやってくれる、あの胆力というか向き合う姿勢にすごく感銘を受けて。脚本家として、別に僕はスキルも何にも無いんですけれど、向き合う姿勢だけは、まずこうあるべきなんだなと学びました。授業は完全リモート体制だったので定刻の終了時間が過ぎて「退出したい人は出てください」という先生からのお声がけもあったのですが、それでも皆先生の話を聴きたいので自主的に残る人が多かったです。それから僕は講座に参加するまでシナリオは全く書いたことがなく、始めの頃はすごく緊張してたのですが、基礎科の講義の時、課題で最初に書いた短い5分のシナリオを、木田先生がすごく面白いとおっしゃってくれたことはとても自信になりました。お二人が基礎科でのスタートを大事にしてくださったのが、3年経ってやっと芽が出た感じがします。
ーー今後の目標についてはいかがですか?
僕は今のところコンクール用のシナリオしか書いていないので、長編の、完結するシナリオというのをまずは書けるようになりたいということが目標です。本当にまだ、全然勉強が足りていなくて、最近はこれまで観たことがないジャンルのテレビドラマを沢山観るようにしています。それから具体的な目標ではないですが、真摯に作品と向き合うことだけは、忘れたくないなと思っています。もし脚本家になれたとして、作品はテレビで放送するものなので、自分が書きたいものとは違うという葛藤もひょっとしたら出てくる気はするんですけど、まずは作品に関して真摯に向き合うということだけは、ずっと忘れたくないなと思います。目標を設定するよりも、まず気持ちは忘れない、ということが目標かもしれないです。
ーーありがとうございます。最後に講座の受講生に向けてアドバイスなどあれば頂けますでしょうか。
ひとつあるとすれば……。僕は仕事をしながら子育てもまあまあしているつもりです、でも執筆もできて受賞もできました。働きながら子育て中の方もきっといると思います。でも大丈夫なんだということだけはお伝えしたいです。
ーーこれから脚本家として園村さんがご活躍されることを、楽しみにしています!本日はありがとうございました!!
プロフィール
園村三(そのむら・さん)
1979年東京都出身。シナリオ講座第76期基礎科・研修科を修了。新聞社記者業等を経て、2012年以降から放送作家を生業とする。2024年、TBS NEXT WRITERS CHALLENGEにてオリジナル企画・脚本「フェイク・マミー」が大賞を受賞。