2019.7.18

7月18日 スチューデントM

日本シナリオ作家協会で学び始め、早くも四ヶ月が過ぎようとしています。
週に一度の講義は、映像表現に関し「映画」と「ドラマ」両面から深く学ぶことができ、授業が終わり近くに差し掛かると、このままずっと続けばいいのにな……と思わずにはいられません。

 

これらの素晴らしい講義をしてくださっているのが、加藤正人先生川嶋澄乃先生安井国穂先生の三名です。

 

本日は加藤先生の講義でした。
私は個人的に、加藤先生の映画『クライマーズ・ハイ』に強い思い入れがあります。
この映画は日航機123便墜落事故を題材としたもので、以前、私が航空会社に勤めていた際、新人客室乗務員の訓練を終えたばかりの頃、偶然にもこの映画が公開され、同期たちと一緒に映画館へ足を運びました。
墜落してゆく航空機の中で最後まで人命救助を諦めない客室乗務員の姿、事故の凄まじい状況、生き残った人たちの悲しみや後悔、そして真実を追求しようと奮闘する新聞記者の姿……すべてが、当時、新人客室乗務員だった私に「命とは何か」を強く考えさせてくれた、そんな素晴らしい映画でした。
自分の客室乗務員デビューが、この映画の公開と重なり、とても幸運だったと思っています。
その映画を描かれた加藤先生の授業を、まさか受けることができるなんて。こんな素晴らしい機会は今後もうないだろうとの思いで、毎回講義を受けています。
「人に影響を与える映画とは何か」加藤先生の講義では、いつもそのことを考えさせられます。

 

今回のテーマは「構成」「台詞」でした。
「構成は脚本の力である−−」と、加藤先生はおっしゃいました。
どんなに良い話であっても、構成が失敗するとすべてが台無し。
そのために、脚本家は「箱書き」を通して、「どの場面を、どの順番で、どう展開するか」を考えることに多くの時間を割きます。
構成の目的はストーリー全体のバランスを調整し、上映時間の中で観客を飽きさせないよう工夫することです。
そのために、授業ではストーリーを面白く展開する構成のパターン(型)も勉強しました。
観客が飽きないということは、ハラハラしたり、ドキドキしたり、思わず泣いてしまったり……といった感情(喜怒哀楽)を刺激されるということになります。
この「感情を刺激される」ということが、「映画を観て感動した!」という気持ちに通じるのではないでしょうか。
加藤先生のおっしゃる「構成は感動を伝える力」という言葉の意味を、私はそのように理解しました。

 

「魅力のある台詞とは何か−−」
台詞に関しても様々なポイントを教わりましたが、中でも一番面白かったのはサブテキストで表現された台詞に関してです。
サブテキストとは行間、すなわち、文章の奥に流れている水脈のようなもので、「サブテキストで表現された台詞」とは、直接的に表現せずとも結果的に上手く伝わる台詞ということになります。
確かにこの手法を用いると、説明ゼリフにならず情報を伝えることができるでしょうし、また、観ている側が「あの台詞の意味って……」と、能動的にドラマに参加できるのではないかと思います。

 

夏目漱石が英語教師をしていた頃、「I love you」を訳す際、生徒たちに「愛している」と訳さず「月が綺麗ですね」と訳しなさいと言った、という逸話があります。この「月が綺麗ですね」を聞いた時、なぜだか胸の底に愛しさのようなものが込み上げてきたのを覚えています。
サブテキストで表現される台詞には、「月が綺麗ですね」のように、日本人の奥深くにある心情、日本人の琴線に訴える不思議な力があるように思えてなりません。

 

週に一度の授業、私にとっては毎回新しい発見、新しい喜びを見出す場であり、また、もっともっと上手く描けるようになりたいと思わせてくれる場でもあります。

 

映像の世界は奥深く、知れば知るほど虜になっていく。そんな授業を見せてくれる先生方、またサポートして下さっているスタッフの方々には感謝の気持ちでいっぱいです。一緒に学ぶ仲間たちとともに、最後まで走り抜けたいと思います。