2020.3.4

3月4日 基礎科夜クラス S.M

「半年間で結果が出そうになかったら、脚本を辞めるつもりでいます」

 

面談で講師の方に伝えた一言です。
プロとして活動したこともないのに、いきなり何を言っているんだと思われるかもしれませんが、
その時の私はかなり思い詰めていたような気がします。
どういった経緯でシナリオ講座に通うことになったのか。
振り返ると、ずいぶん回り道をしてしまいました。
ちょっと長いですが、書いてみようと思います。

 

これまで1000本以上の映画を鑑賞してきました。これは1日、2日で到達できるものではなく、
数十年長い年月をかけて積み重ねていった結果だと思います。
大学時代はサークルの仲間たちを集めて、自主映画を数本監督しました。
それだけでなく、シネコンや名画座に連日通ったり、BS・CSで放映される映画を毎回録画して、
帰宅すればそれをひたすら観続けたりという毎日を繰り返していました。

 

脚本を執筆する上で、映画の知識は必要不可欠。
しかし、単なるオタクはプロではないのです。
自分に変なプライドを抱いてしまい、仲間たちと衝突することが多々ありました。
当時の私は何かを勘違いしていたのだと思います。

 

監督として何本も撮り続けている人たちの周りには、いつも大勢の仲間たちが集まっています。
作品が面白いから人が集まるというより、「この人と映画を撮りたい!」と思わせる人望がありました。
どれほど映画を観ていても、どれほど映画に造詣が深くても、それだけでは映画を撮ることができない。
明らかに欠落している何かを突きつけられたまま、私の大学時代が終わりました。

 

卒業後。
志望していた映画配給会社も落とされ、普通の一般企業に就職しました。
そこで、自分の方向性を考えざるを得ない出来事が起きました。

 

とある学習塾に就職した私ですが、ノルマを達成できず、
新卒1年目にして退職寸前にまで追い詰められてしまいました。
そんな私を救ってくれたのが、西川美和監督の『永い言い訳』です。
鑑賞後も頭を離れず、映画評という手段を使って自分の思いを表現することにしました。
生まれて初めて書いた映画評。
それがなんと、映画雑誌に掲載されることになったのです。

 

自分の書いた物が第三者に認められるという歓び。
会社の忘年会で自己紹介の時間があり、プライベートの話題が上がったため、掲載されたことを伝えてみました。
「凄いね!」
「ちょっと読んでみたいな!」
そんな反応を期待したのが間違いでした。
「おめえの話なんかつまんねんだよバカ!!」
ヤジが飛び交い、大笑いされてしまいました。

 

映画の世界であれば、多少なりとも評価されたかもしれません。
しかし、映画とは全く縁のない世界であれば、たとえどんなに凄い映画評・脚本であっても、
興味のない人間からすれば、それは紙くず同然なのです。
もしかすると「映画なんかに時間割いてさ…」と、陰で何かを言われていたかもしれません。
「努力する方向を間違えてしまえば、取り返しのつかないことになるんじゃないか」
そんな現実に愕然としましたが、バカ映画好きな私にとって、映画とは無縁な会社での苦い経験は、
「自分はシナリオで何を表現したいのか」を真剣に考えさせられた期間だと思っています。

 

その後も映画評を投稿し続けましたが、箸にも棒にもかからず。
独学で脚本も書き始めましたが、やはり一人で書き続けることに限界を感じ、シナリオ講座の門を叩くことになります。

 

「とりあえず、やってみると良いと思うよ」講師の方からの一言に勇気づけられ、
これがラストチャンスだと自分に言い聞かせ、受講を決意しました。

 

シナリオ講座に通って良かったこと。
それは、脚本家を志す仲間たちと出会えたことです。
みんなそれぞれ、表現したい何かがあり、
「好きな映画をオマージュしたい」という人もいれば、
「未精算の過去を精算したい」という人もいます。
どこかガラス細工のように繊細な感性を持っている人たちが書くことに辿り着いているような気がします。
脚本は講座に通わなくても、自分ひとりで書けてしまいます。
ですが、同じ目標を持った人たちと出会い話すことで、
新しい価値観や自分の知らない一面に気づかされ、それが書く物にも反映されるのです。

 

そして最後に。
シナリオの講評や授業後の飲み会にいつも付き合ってくださる講師の方々。
直接お会いして、気づいたことがあります。
それは、ただ単に面白い本を書けるのがプロではなく、
「次もまたお仕事したい」と思わせる人がプロとして長く活躍されているのではないかということです。
大学時代の、いつも仲間たちを掻き集めて自主映画を撮り続けていた監督たちの姿と重なります。
仕事というのは、やはり人望あってこそ。そこに有名無名は関係ありません。

 

どれだけ映画を観ようが、シナリオ教則本を読もうが、絶対に手に入ることがない。
あれもこれも、すべて貴重な財産だと思っています。
通うかどうか迷われている方がいらっしゃれば、受講することをおすすめします。
「もう半年間通ってみようかな」 脚本を辞めようとした私が今、伝えたい一言です。