2010.6.10

どーも。(基礎科昼間部)

ブログ担当3番手、谷英明と申します。

プロのシナリオライターを目指して入学された同期の方々に比べれば、私は不純な動機で入学してしまいました。おそらく2ヶ月前の私と同じように、一歩踏み出そうかと迷いながら、今このブログを読んでいる方々は少なくないと思います。実際私もそうでした。

 

安心して下さい。踏み出して見て下さい。それだけの価値は十分にあります。

私は決して学校の回し者ではありません。

 

6月8日の創作論講義は、サトウトシキ監督による「ピンク映画の創り方」である。いろいろな意味で刺激的な2時間であった。

 

授業も終わりに差し掛かった時、先生が私達に質問をした。

 

「SEXシーンを描くとします。あなたならそのSEXシーンの前にどのようなシーンを描きますか」

 

今まで考えたこともない発想だったので、私は先生に指されないようにと、この世の終わりのような表情をつくって下を向いていた。
その甲斐あって指されることなく無事授業は終わったが、なにか心に引っかかるものがあった。

 

向田邦子の数ある名作の中に、こんな話がある。

 

夫も子供もいる女がある男と出会う。男は末期癌の画家である。安定した生活だが、どこか刺激を求めていた女は男に惹かれていく。
やがて女は夢から覚めるように男と別れ、夫の元へ帰っていく。

 

ほんの3日間の出来事である。

 

読み終わってもどこか腑に落ちなかった。確かに女は男に惹かれ、男も女に惹かれ、不倫は成立した。そう感じた。
ただそのきっかけとなる明確なシーンや、台詞のやり取りがあったであろうか。思い出せない。それどころか結局二人はキスもSEXもしなかったはずだ。にも関らず妙に生々しさを感じた。

 

なぜ自分がそう感じたのかを確かめたくて始めから読み返した。愕然とした。やはり明確なシーンはない。ただこんなト書きがあった。

 

ト書き直前の流れは、ひょんな事で男は病院に行くことになり、女は付いていく事になる。女は診察が終わるのを廊下で待っている。
(因みにこの時、女と男は出会ってほんの2・3時間である)

 

●病院 廊下
待っている女
持っている男の上着に絵の具がついている。
こすってみる。
自分の絆創膏をはがし、汚れをこする。
衿の匂いを嗅ぐ。
バックから時計を出す。
革のベルトの匂いを嗅ぐ。 
(この時計は男が直前まで身に付けていた物である)

 

このト書きだけで、私はその女の性欲を感じ、勝手に不倫を成立させてしまったのである。
どうしたらこんなト書きを思いつくのかと、その時はただただ愕然とするのみだったが、今回先生から色々とお話を伺って、すこし分かった気がする。

 

野暮なシーンを創らなくても不倫は成立させられるのである。そのきっかけとなる何かを、その前にちゃんと描けてさえいれば。

 

もしあの教室に向田邦子がいたなら、先生の質問に臆することなく、自ら手を上げて、堂々とこのト書きを回答としてぶつけたであろう。

 

いきなりSEXと言う言語が飛び出したため、柄にもなくあたふたしてしまた。今思えば「ピンク映画の創り方」と銘打って講演にいらっしゃっているのだから、そのくらいの言語は飛び出して当然である。

 

創り手の思考回路になるまではまだまだ程遠い。
大切な視点が抜けていた。

 

自分が創り上げようとしている人物に問いかけてみる。

 

おまえは童貞か?処女か?
初体験いくつの時か?相手は年下か?同級生か?年上か?
最近SEXしたのは?
好きな体位は?
欲求不満か?満たされているか?
最近見たエッチな夢は?
性癖は?
興奮するシチュエーションは?

 

いつかあんなト書きが書けるようになるかも知れない。なりたい。

 

そんな6月8日でした。

 

どうしても引っ掛かりが取れなかった私は、授業終わりに先生にアタックした。入学以来初めてだった。
先生は私の拙い質問に丁寧に答えて下さいました。気がつけば30分をとうに越していた。

 

この場をお借りしまして、サトウトシキ先生ありがとうございました。