5月19日創作論講義(安永)
本日の創作論講義「映画『ニセ札』ができるまで」
講師/井土紀州さん(シナリオ作家・映画監督)・向井康介さん(シナリオ作家)
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飲んだ翌朝は辛い。勤め先へ歩く。そのとき体の異変に気づいた。
「左ケツが痛い」
左ケツとは、尻の割れ目から左手側にある片割れの尻のことだ。尻を揉んでみる。うん、いつもの弾力だ。しかし打撲のような痛み。お尻の痛みを書きたいわけではないので、そろそろ創作論講義を振り返る。
今回、講義に来てくださったのは井土紀州さん、向井康介さんのお二人でした。
シナリオを書いていく過程を映画『ニセ札』裏話を交えながら、取材や登場人物の設定、など具体的に話され惹きこまれる。プロットからシナリオを書くことの大変さについて井土さんは言われた。
「シナリオを書いているとき、自分で批評せずに、とにかく最後まで書く。おもしろくなかったら何回でも書き直せばいいんだ」
しびれた。今の僕はシナリオを書いていても、自分の心の中に住んでいる厳しい批評家が、「なに、このセリフ?つまんねえんだけど」とか「ほんと、こんなに下手糞なのに、よく脚本書きたいとか言えるね」とか書いている途中なのに傷つくことを言ってきて、僕は「ダメだ」
と呟き、机に頭を突っ伏して呻く奇行の繰り返しでシナリオが書けずにいた。本当に助けていただいた、お言葉でした。
講義終了後、井土さん、向井さんと受講生で飲みに行く。井土さんには初めてピンク映画の脚本を書くまでの出来事や瀬々さんとのやりとり、などを聞かせていただく。
「井土さんが監督された『百年の絶唱』が観たいんですけど上映しないんですか?」
と聞いてみると井土さんが監督された新作映画を今年の秋に上映するので、そのときにでも上映できればするよ、とのこと。井土さんが考えられていた時代劇の話も、おもしろくて、「映画化されてほしいです。今、上映してる、つまんない映画なんかいいから」と酒も飲んで強気になった僕は日本映画界に軽めに吠えてみた。
向井さんには若い女性のファンが多いのか、向井さんの近くの席まで移動したら受講生の女性に明らかに邪魔そうな雰囲気で席をとられた。しゃあないかと、飲んでいると「向井さんはすごい」という話になった。向井さんは
「そんなことないっす」
「すみません」
「いや、ホント自信ないんで」
と繰り返し言われるので
「向井さんが自信なかったら僕ら、どうすればいいんですか」
思わず僕が言うと
「いや……自信ないんで」
その場はみんなで笑ったけれど、本当にそう考えておられるんだなと、凄みを感じた。あんな素晴らしい映画のシナリオを書いても、謙虚に飽くなき向上心を持っておられるのだ。
そうこうしているうちに終電の時間が来てしまい解散となる。
帰りの電車に乗ろうとしたら扉いっぱいまでギュウギュウ詰めの電車が停まっていて、途中まで帰りの電車が一緒のMさんが
「この電車を逃すと帰れないんです」
とか、ほざくので、サラリーマンたちを押し込み乗り込んだ。体がペシャンコになるかと思うぐらいギュウギュウで……
「あっ」
謎は解けた。左ケツの痛みの原因は、あの終電の満員電車だったのだ。
「おい!ケツがオチかよ。つまんねえんだよ」
また批評家が出てきた。でも前の僕とは違うのだ。
「何回でも書き直せばいいんだよ」
と格好よく言ってみたが、ベランダで葱を育てたりしていたので、すでに約束した講義日誌の提出日は過ぎている。すみません、シナリオ書きます。
安永 (第53期基礎科夜間部)
大阪府守口市出身
東京乾電池の池口十兵衛氏と自主映画の企画をしています。
ご興味のある方は池口十兵衛HPまで
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